日系企業がタイで土地を買うための8ステップ
目次
タイでの土地購入プロセスは、用地選定から土地権利移転まで、主に8つのプロセスがあります。
土地購入における8ステップ
- 1.用地選定
- 2.フィージビリティスタディ
- 3.土地デューデリジェンス(D/D)
- 4.地権者との交渉
- 5.契約締結
- 6.各種許認可のためのドキュメンテーション
- 7.各種許認可申請
- 8.土地の権利移転
候補地をふるいに掛ける「選定・調査フェーズ」
土地購入の第一歩となる「1.用地選定」では、多数ある用地の中からふるいにかけます。そのためにも目的の明確化が必須です。そのうえで希望面積・予算・エリアを整理し、タイの都市計画とも照らし合わせて検討する必要があります。例えば工場建設が目的なら、住宅用途の土地は適切ではありません。タイの都市計画による制限も格段に厳しくなっているため、「目的が達成される土地であるか」といった基本的観点からの下調べが必要になります。
5~6ヵ所程度まで用地を選定したら、次は「2.フィージビリティスタディ」の実施です。各候補地について、土地を買うための購入コスト、土地を使える状態にするための開発コスト、用途に合った建物を建設するための建築コストなどの概算を実施。事業の収支計画との整合性を確認します。加えて、洪水等の災害リスクに関しても調査を行い、各候補地の優先順位付けをして比較し、2~3ヵ所程度に候補を絞ります。
確度の高い2~3ヵ所に絞った後、各候補地に関してより詳細な調査を行う「3.土地デューデリジェンス(D/D)」に移ります。D/Dは非常に重要な調査であるうえ、少し煩雑なため次ページで詳しく説明いたします。
詳細な調査をもとに交渉を行う「交渉・契約フェーズ」
次は、D/Dの調査結果に基づき候補となった「4.地権者との交渉」を行います。この時点で複数の候補地がある場合には、複数の地権者と交渉することになります。タイでは土地に3つの大きな税金がかかりますが、「売買の際は、どちらが何割を負担するのか」は当事者で自由に決定できます。そのため地権者とは、土地の価格だけでなく、税金負担に関する交渉も行う必要があります。加えて「いつ、どのような状態で」引き渡すのかという引き渡し条件も決めておく必要があります。
最終的に候補地を1つに絞り込み、地権者との交渉がまとまったら、次はいよいよ「5.契約締結」です。契約書には、価格、税金の負担、引き渡しの条件、スケジュール、売手と買手がそれぞれ果たすべき責務、契約解除の条件等を明記します。必ず外部専門家の力が必要になる場面です。
外部専門家は専門分野によって強み、弱みが分かれますので、不動産取引に強い外部専門家の利用を推奨します。
契約や許認可、煩雑な手続きの 「法的手続きフェーズ」
契約締結後は「6.各種許認可のためのドキュメンテーション」「7.各種許認可申請」に進みます。タイでは外国企業が買手の場合は「土地所有許可」を、売手の場合は「売却許可」を必ず取得しなくてはなりません。このためのドキュメンテーションや申請手続きはかなり煩雑になります。申請から許可取得までに時間を要す場合もあるため、外部専門家と相談しながら準備を進める方が無難です。
各種許認可の取得後は、最後のステップである「8.土地の権利移転」の手続きに移ることができます。土地登記移転のための書類も多岐にわたるため外部専門家との事前の準備が必須です。土地局にて登記を移転するための申請手続きを行い、登記が完了すれば土地購入の全プロセスは完了です。
登記手続き自体は、概ね3~4時間程度で完了することが一般的です。登記移転日の1週間ほど前から土地局職員と密にコミュニケーションを図り、登記移転日での思わぬミスを生じさせないことが要諦です。
詳しく知りたい!土地デューデリジェンスとは
土地デューデリジェンス(以下、D/D)では、フィージビリティスタディ(以下、F/S)よりも詳細な調査を行うため、外部専門家等の協力が必要となり、実費がかかります。時間もコストも要する調査だからこそ、フィージビリティスタディを通して候補地をふるいに掛けることが大切です。
F/Sでは、ある程度ざっくりとしたコストを出して収支計画との整合性を確認します。一方でD/Dでは、より多くの項目で、より細かい調査を行うため、算出する数値の精度も上がります。F/Sの目的が「候補地をふるいに掛けること」であるなら、D/Dの目的の一つは「最終候補を絞り込むこと」と言えるでしょう。
用地取得の実現可能性を精査
第一に法的観点のD/Dを行います。売主が適正な「所有権」を有しているか、債権者による担保を意味する「抵当権」、他の人が土地を通行できる「地役権(アクセス権)」、第三者に土地が貸されていることを意味する「借地権」等の権利関係について調べます。また、土地のオーナーの信頼性や訴訟履歴に関する調査を行う場合もあります。
次に法令や規制の観点から「目的が達成される土地であるか」を確認します。例えば用地取得の目的が「物流倉庫の建設」であれば、その土地は物流倉庫建設に相応しいエリアにあるのか。タイの都市計画と照らし合わせたうえで、物流倉庫を建設しても問題のない土地なのか。建物の高さや面積は建築制限に抵触しないか。このような観点から、用地での事業実行可否を精査します。
現場に赴いて初めて入手できる情報も
次の大きなポイントは、環境D/Dです。対象地の土壌や地下水が汚染されていないか、周辺からの騒音や臭い、振動、大気汚染などがないかを調査します。事業内容によっては環境アセスメント(EIA)が必要な場合もあるので、D/Dで確かな情報を収集します。
また、物理的D/Dとして、現場では「土地内に崖や窪み、高低差がある」など、地図上やオンラインでは知り得なかった候補地の物理的情報が明らかになります。タイ南部のEEC(東部経済回廊)エリアでは特に、土地に高低差があるケースが多く、その場合は土地をならして高さを合わせるための開発コストがかかります。バンコク近郊やアユタヤ周辺では、地盤が緩いため杭を打って地盤を整える作業が必要になることもあります。樹木の根が張っている場合、撤去時に表層が大きくえぐれ、盛土造成費が余計にかかることもあります。廃棄物が放置されているなら、それらを撤去しなければなりません。このように、土地を正常な状態で使えるようにするためのコストについても算出します。
あらゆる側面から投資価値を判断
財務的D/Dでは、各ゼネコンから精緻な見積を取り、開発コスト・建設コストを細かく出して、経済性・市場性の観点から「投資する価値があるのか」を判断します。
投資価値の判断においては、「従業員の採用難易度」も考慮する必要があります。例えば、同じ工業団地でも、アユタヤとEECエリアでは、採用コストに大きな差があります。近年、EECエリアには中国のEV社が急増しているため、毎年賃金を上げ続けないと人材を囲い込めないと言われています。一方でアユタヤは、2011年の洪水の影響で企業の増加率は緩やかです。そのため現在は、採用側と働き手のバランスが程良い印象です。このような採用の側面も、長期的には重要なポイントとなるでしょう。
その他インフラ関係や、近隣住民との関係性に関する調査も行います。D/Dは用地取得における重要な調査のため、タイの土地に関する正しい知識や十分な実績を有する、信頼できる業者を見つけることが肝心です。なお、弊社の実績については62ページをご覧ください。いつでもお気軽にお問い合わせください。
代表取締役社長
高尾 博紀
早稲田大学商学部卒業。2008年来タイ。ホテル・オフィス用地や工場倉庫用地及びホテルやオフィス、商業施設などの事業用不動産売買に強みを持つ。タイ国内において1,500,000㎡を超える不動産取引実績を有し、企業の不動産取得支援を行っている。