タイ不動産市場、開発案件の売買が加速― EIA承認済みプロジェクトを大手が取得、弱含む市場で資産の選別進む
タイの不動産市場で、開発会社による土地や開発案件の売却が目立ち始めている。市場低迷を受けて新規投資を先送りするだけでなく、すでに環境影響評価(EIA)の承認を取得したプロジェクトを売却し、資金確保や財務体質の維持を図る動きが出ている。

背景にあるのは、住宅購入力の低下、資金調達コストの上昇、社債市場の不安定化などである。特に中小規模の開発会社にとって、土地の保有コストやプロジェクト準備費用は重荷となっており、開発を継続するよりも、承認済み案件を売却して現金化する判断が増えている。
一方で、資金力のある大手デベロッパーにとっては、市場低迷期こそ優良資産を取得する機会となる。EIA承認済みのプロジェクトは、土地取得、設計、許認可申請といった初期工程をすでに終えているため、ゼロから開発する場合に比べて、準備期間を1年以上短縮できる可能性がある。
建設許可は大幅減、供給側は明確に縮小

タイ不動産市場の減速は、各種統計にも表れている。Real Estate Information Centre(REIC)によると、2026年第1四半期の全国住宅用地分譲許可戸数は5,783戸となり、前年同期比45.7%減少した。また、住宅の建設許可戸数は27,870戸で、前年同期比50.2%減となった。
特に落ち込みが大きいのはコンドミニアムである。コンドミニアムの建設許可戸数は前年同期比71.3%減となっており、多くの開発会社が高層住宅の新規投入を控え、既存在庫の管理を優先していることがうかがえる。
ただし、需要が完全に消失しているわけではない。全国の住宅所有権移転件数は前年同期比11.2%増、新規住宅ローンも11.1%増となった。もっとも、需要の中心は300万バーツ以下の実需層向け住宅であり、750万バーツ超の高価格帯では移転件数、移転価額ともに減少している。
EIA承認済み案件は「時間を買う」投資対象に
今回の動きで注目されるのは、EIA承認済みプロジェクトが一種の「ショートカット」として評価されている点である。
タイでは一定規模以上の住宅・商業施設などにEIAが必要となる。EIA承認を得るまでには、設計、調査、行政手続きなどに時間を要する。そのため、すでに承認を取得した案件は、開発を急ぎたい企業にとって価値が高い。
AssetWiseのKromchet Vipanpong CEOは、他社がすでに設計やEIA承認を終えた案件を取得することで、土地取得から許認可までを自社で進める場合に比べ、準備期間を1年以上短縮できると説明している。同社は現在、複数の案件について交渉を進めており、2026年第3四半期または第4四半期に詳細を発表する可能性があるという。
これは、単なる不動産売買ではない。市場低迷により資金繰りに課題を抱える開発会社が、すでに投じたコストを回収する一方、資金力のある企業が将来の市場回復に備えて開発権益を取得するという、業界内の再編ともいえる動きである。
土地価格の上昇にも一服感
土地価格にも変化が出ている。これまで開発会社は優良地の取得競争を続けてきたが、足元では資金力と選別眼を持つ企業が優位に立つ局面へ移りつつある。
プーケットでは、コロナ後の不動産ブームにより土地価格が大きく上昇した。3年前には1ライあたり約1,500万バーツだった土地価格が、現在では4,000万〜4,500万バーツまで上昇している。一方で、大手開発会社はすでに十分な土地を確保しており、新たな買い手が少なければ、今後の価格上昇は限定的になるとの見方も出ている。
高値で土地を取得したものの、開発に進めない投資家や事業者が売却に動けば、今後さらに多くの土地や開発案件が市場に出てくる可能性がある。
2026年のタイ不動産市場は「拡大」より「選別」の年へ
2026年のタイ不動産市場は、積極的な新規開発よりも、資産の選別と財務の健全化が重視される年になりそうだ。資金力のある開発会社は、弱含む市場を利用して優良な土地やEIA承認済み案件を取得する。一方、財務余力の乏しい開発会社は、土地や準備済みプロジェクトを売却し、流動性を確保する必要に迫られている。
この動きは、住宅市場だけでなく、今後の商業施設、複合開発、都市部の再開発にも影響を与える可能性がある。市場が低迷する局面では、単に価格が下がるだけではなく、どの企業が次の成長局面に向けて資産を仕込めるかが問われる。
タイ不動産市場は、拡大一辺倒の局面から、資金力、立地、許認可、開発スピードをめぐる選別の局面へと移行している。今後は、EIA承認済み案件や開発準備済みの土地が、再び市場の重要な投資対象として注目される可能性が高い。
出所:The Nation「EIA-approved projects change hands in weak market」(2026年6月23日)

GDM編集部







