タイがエネルギー危機対応策を発動|石油輸出停止・代替供給確保で備蓄61日分を死守
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イスラエル・イラン衝突でホルムズ海峡が閉鎖、世界の石油供給の2割に影響。タイ政府は緊急措置を即時発動し、国内燃料の安定確保に動き出した。
ホルムズ海峡閉鎖でタイのエネルギー安全保障に激震
2026年2月28日に勃発したイスラエルとイランの武力衝突は、世界のエネルギー市場を揺るがす事態へと発展した。イランが世界の石油供給量の約20%が通過する海上輸送の要衝・ホルムズ海峡を封鎖したことで、原油価格は急激な乱高下を見せている。
タイへの原油輸入ルートは大きく4系統ある。

- 中東ルート(アラブ首長国連邦・カタール・サウジアラビア・クウェートなど):ペルシャ湾→ホルムズ海峡→アラビア海→マラッカ海峡→タイ湾
- 極東ルート(オーストラリア・ニュージーランド):南シナ海→タイ湾
- 米州・アフリカルート(米国・ブラジル・ナイジェリアなど):喜望峰→マラッカ海峡→タイ湾
- 北アフリカルート(リビア・スーダン):スエズ運河→紅海→マラッカ海峡→タイ湾
中東は最も重要な輸入元であり、その供給ラインがホルムズ海峡封鎖によって直接的な打撃を受けている。
タイ政府が即時発動した5つの緊急エネルギー対策

エネルギー大臣のアウタポン・ラークピボン氏は、事態を受けて以下の緊急措置を即時発動するよう指示を下した。
- エネルギー緊急監視センターの設置:動向を常時追跡し、各機関に対して備蓄量と価格への影響を評価するよう指示
- 石油燃料基金による価格補助の準備:国際原油価格の上昇が国内小売価格や国民の生活コストに与える影響を緩和
- タイ湾での天然ガス増産計画の策定:鉱物燃料局に対してガス田の定期メンテナンスを延期し、減産を最小化するよう指示
- 石炭・水力発電所をフル稼働:代替電源を最大限活用し、LNG依存を低減
- 長期・短期の対応計画を策定:事態が長期化した場合に備えた段階的措置を準備
現時点の石油備蓄は「61日分」——その内訳
エネルギー省報道官のウィーラパット・キアトフェンフー副事務次官によると、2026年2月23日時点での国内エネルギー備蓄は以下の通りだ。

| 区分 | 備蓄量 | 対応日数 |
|---|---|---|
| 国内在庫(原油+精製品) | 49億2,500万リットル | 38日分 |
| 輸送中の原油(ホルムズ通過済み) | 17億4,600万リットル | — |
| その他ルートからの輸送中原油 | 11億2,400万リットル | — |
| 合計 | 77億9,500万リットル | 61日分 |
「事態が拡大せず、他国を巻き込む事態にならないことが最も重要だ。そうなれば、エネルギーの安定性と世界経済へのリスクが一層高まる」とウィーラパット氏は述べている。
LNG供給の代替調達——タイ湾・ミャンマーからの増産も視野
エネルギー規制委員会(ERC)は2月25日の会合において、ホルムズ海峡閉鎖やカタール・UAEからのLNG受け取り不能を想定した緊急シナリオをすでに検討済みだ。主な対応策は以下の3点である。
- タイ湾・JDA・ミャンマーからのパイプライン天然ガス調達を増加:スウィングガス(契約上の柔軟枠)をフルに活用
- 既存パートナーからの追加長期LNGおよびスポットLNGを確保:各社に緊急協議を要請
- 発電所の燃料備蓄確認と代替供給体制の整備:EGAT(タイ電力公社)およびPTTと連携し、電力システムの安定維持を図る
なお、3月分として予定されていた4件のLNG納入については、すでに2隻がホルムズ海峡を通過済みであり、残る2隻も通過中であることから、当面の備蓄には影響がない見通しだ。
エネルギー専門家が警告「1〜2週間の閉鎖で原油100ドル突破も」

タマサート大学経済学部の元学部長で独立系エネルギー研究者のプライポン・クームスップ氏は、ホルムズ海峡封鎖がタイに与える影響について次のように分析している。
- タイはエネルギーの約3分の1を原油と天然ガスに依存しており、その多くがホルムズ海峡経由
- 国際原油価格は2月中に1バレル60ドルから70ドルへ上昇しており、長期化すれば最低80ドルに達する見込み
- 主要ルートが1〜2週間閉鎖されれば、原油価格は即座に100ドルに跳ね上がりうる
- 輸送保険料の急騰、一部保険会社による高リスク地域への補償制限開始など、物流面への影響も始まっている
価格への波及効果について、プライポン氏は「原油価格が10ドル上昇するごとに、タイの小売油価は1リットルあたり2バーツ値上がりする」と試算している。
さらに発電用LNG価格も原油連動で上昇するため、次の電力料金改定時に電気料金が値上がりする可能性も否定できない。
「影響はガソリンスタンドの価格だけにとどまらない。電気代、輸送費、そしてほぼすべての物価に波及する」とプライポン氏は警告している。
まとめ|タイのエネルギー安全保障、正念場を迎える

タイは現時点で61日分の石油備蓄を確保しており、政府も迅速な対応策を打ち出している。しかし事態が長期化・拡大した場合、LNG供給の途絶、電力コストの上昇、そして国民生活への物価高騰という三重の打撃が現実のものとなりうる。
3月4日以降の国際原油市況と国内小売価格の動向、そしてホルムズ海峡の状況が今後の焦点だ。
出所:Thailand rolls out energy crisis plan: export curb, alternative supplies

GDM編集部







